この手を握り返して
※瀕死の滝夜叉丸と看取る小平太。


『小平太、平が』

切迫した同室の相棒の言葉に、掘りかけの塹壕をそのままに医務室へ駆け込んだのは半刻程前。そこには血の滲んだ包帯を身体全体に巻き付け、布団の上で痙攣と喀血を繰り返す愛しい恋人の姿があった。


四年生の実習は、基本的に危険度は高くない。学園で身に付けた知識や力量を再確認するような内容ばかりで、少し物足りなく感じることもある位だ。今回もいつもと変わらず帰ってくる筈だったのだ。風呂に入りたい、髪の手入れがしたいと愚痴を零しながらも元気に、私の元へ。
しかし、その未来は来なかった。実習先の城と敵対している城の敵襲に偶然巻き込まれた、と綾部は途切れ途切れに告げた。綾部、田村、斉藤もかなり手酷い傷を負ったが、一番酷いのは滝だった。よくこの傷で学園まで帰って来れたと伊作が驚いていたと言う。



滝の枕元に座り込み、手を握り続けているが包帯など無意味だとあざ笑うように鮮血が布団に染みている。
もう、時間の問題だろう。
私のことを案じてか誰もその事実を告げなかったが、一目瞭然だ。身体が大きく震える度に口からは大量の血が溢れ出す。気管が詰まらないように、血を吸い出してやることしか出来なかった。自慢のふっくらとした唇の面影はなく、爛れて裂け目が出来ていた。

「滝、お前はいい子だな、私の自慢の後輩だ」

滝はもう喋る力もないようで、短く浅い呼吸を繰り返している。滝の身体がどこまで機能しているかは分からないが、聴覚は死ぬ瞬間まで働いているという話を伊作から聞いて、絶えず語りかける。この部屋にはもう二人きりだ。最期の時間を二人で過ごしたい、と頼み込み、部屋を移してもらった。私はどのような顔をしていただろうか。もう自分が泣いているということにも気付かなかった。


なぁ、滝、逝かないでくれ。私は一人になってしまう。
一緒にフリーの忍者として仕事をして、私はお前がいつでも幸せに暮らせるようにしっかり働く。豪華な暮らしでなくていい、質素でも、幸せな家族になろう。
なぁ、滝……

「愛している」


- - - -

そうして滝は私を残して逝ってしまった。月のないどこまでも深い藍色の空に、滝は消えた。
私の最後の愛の言葉は聞こえていただろうか。
滝、私は寂しいよ。


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うーんなんとなく書きたかったものとちがうなぁ…涙
あまり良いことではないけど、死別の瞬間の話を書くのがとても好きです。うまく書けないんだけどね!!
綺麗な終わり方じゃなくて、人間なので、悲痛な感じにしたいんだけど…勉強不足。
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